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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)2749号 判決 1989年5月29日

控訴人

甲 野 一 郎

右訴訟代理人弁護士

三 森   淳

被控訴人

甲 野 二 郎

右訴訟代理人弁護士

谷 村 正太郎

藤 原 真由美

被控訴人

甲 野 三 郎

主文

原判決を次のとおり変更する。

本件訴えのうち、別紙物件目録一記載の土地につき控訴人及び被控訴人両名の持分各九分の二(合計三分の二)、同目録二記載の建物につき同持分各五四分の二(合計九分の一)について共有物分割を求める部分を却下する。

別紙物件目録一記載の土地の持分三分の一、同目録二記載の建物の持分九分の八について競売を命じ、各売得金を右土地につき控訴人及び被控訴人両名に各三分の一、右建物につき控訴人に四八分の四六、被控訴人両名に各四八分の一の割合で分割する。

訴訟費用は、第一、二審を通じこれを三分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人甲野二郎の本件訴えを却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人甲野二郎の負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、原判決事実摘示並びに当審における記録中の証拠目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一まず、被控訴人甲野二郎が本件土地建物について共有物分割を求める本件訴えの適否について判断する。

請求原因事実のうち、本件土地の全部及び本件建物の持分六分の一がもと亡甲野四郎の所有であったこと、四郎は昭和五一年一月七日死亡し、その妻甲野はな、長男被控訴人甲野三郎、二男被控訴人甲野二郎、三男控訴人甲野一郎が共同相続(本件第一相続)したこと、はなは昭和五九年八月九日死亡し、その子である控訴人及び被控訴人両名が共同相続(本件第二相続)したこと、控訴人及び被控訴人両名を当事者とする東京家庭裁判所昭和六一年(家イ)第七一三九号遺産分割事件において昭和六一年一二月二二日本件第二相続について遺産分割の調停(本件調停)が成立したことは、当事者間に争いがなく、本件土地建物につき右三者間に分割の協議が調わないことは、弁論の全趣旨により明らかである。

ところで、遺産相続により相続人の共有となった財産の分割(遺産分割)について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によってこれを定めるべきであり、通常裁判所が判決手続でこれを判定することは許されない。

そこで、本件第一、第二相続に関し本件調停によって本件土地建物につき共同相続人である控訴人及び被控訴人両名の間でこれを民法二四九条以下に規定する通常の共有関係にする旨の遺産分割協議が成立したか否かについて検討する。

前記当事者間に争いのない事実に<証拠>を総合すると、亡甲野四郎と控訴人一郎は昭和四八年一一月四郎所有の本件土地上に本件建物を建築し、昭和四九年五月二一日持分各二分の一の割合で所有権保存登記をしたが、その後昭和五〇年三月に控訴人一郎の持分を六分の五、四郎の持分を六分の一とする所有権更正登記手続をしたこと、本件建物には四郎・はな夫婦と控訴人一郎及びその家族が同居し共同生活を送ってきたこと、四郎が昭和五一年一月七日死亡したことにより、本件土地につきその妻はなが持分九分の三、控訴人一郎及び被控訴人両名が持分各九分の二の割合で、本件建物につきはなが持分五四分の三、控訴人一郎及び被控訴人両名が各五四分の二の割合で共同相続(本件第一相続)し、本件土地建物は右の者らの共有となったこと、控訴人一郎及び被控訴人両名は、母はなが生存し本件建物に居住していることもあって本件第一相続による亡四郎の遺産について分割協議をしないでいたところ、被控訴人二郎は、昭和五五年一〇月二〇日控訴人一郎の了解を得ずに本件土地建物について本件第一相続を原因として前記持分割合による相続登記を経由したこと、はなは昭和五九年八月九日死亡し、被控訴人二郎は、翌昭和六〇年一一月頃本件第一相続による亡四郎の遺産分割について東京家庭裁判所に控訴人一郎と被控訴人三郎を相手方として調停の申立てをしたが、被控訴人二郎が本件建物は全部父四郎の遺産であると主張し、他方控訴人一郎も本件第一相続を原因とする前記相続登記は同控訴人を無視してなされたものであると苦情を述べたため、不調に終わったこと、次いで、被控訴人二郎は昭和六一年三月中野簡易裁判所に本件土地建物につき共有物分割の調停の申立てをしたが、控訴人一郎が寄与分を強く主張するなどしたため、これも不調に終わったこと、さらに、被控訴人二郎は、同年七月二六日本件第二相続による亡はなの遺産分割について東京家庭裁判所に審判の申立てをしたところ、右審判事件は調停に付され、当該調停の席上、控訴人一郎及び被控訴人両名の間で本件第一相続開始前の本件建物の持分割合につき控訴人一郎が六分の五、亡四郎が六分の一であり、かつ本件第一相続により各相続人が前記相続登記の持分割合で共同相続したことについて合意に達したので、右三名は、これを前提として、本件第二相続について、亡はなの遺産(同人が本件第一相続により取得したもの)が本件土地の持分九分の三及び本件建物の持分五四分の三であることを確認し、これを各三分の一の割合(本件土地につき各九分の一、本件建物につき各五四分の一)で共有取得する趣旨の本件調停を成立させたこと(したがって、亡四郎の遺産のうち、亡はなが本件第一相続によって取得した本件土地の持分九分の三及び本件建物の持分五四分の三は、本件調停を成立させる前提として該調停において遺産分割の対象とされたものと解される。)、しかし、本件第一相続による亡四郎の遺産のうち、亡はなの遺産となった部分を除いたものについては本件調停において遺産分割の対象とされず、控訴人一郎においては本件第一相続による亡四郎の遺産全体についての遺産分割はいまだ成立していないものと認識しており、被控訴人両名も本件調停により本件第一相続による亡四郎の遺産全体について遺産分割協議が成立したか否かについてはこれが成立したとの明確な認識を有していないこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、本件第一及び第二相続により控訴人一郎及び被控訴人両名の共有となった本件土地建物(ただし、本件建物についての控訴人一郎の持分六分の五を除く。)の遺産分割は、亡四郎の遺産のうち、亡はなが本件第一相続によって取得し同女の死亡(本件第二相続)によってその遺産となった本件土地の持分九分の三及び本件建物の持分五四分の三については本件調停により控訴人一郎及び被控訴人両名の間においてこれを通常の共有関係にするとの遺産分割協議が成立したものと認めることができるが、本件第一相続に関する亡四郎の遺産のうち、亡はなの遺産となった部分を除いたものについては本件調停によってもいまだこれを通常の共有関係にするとの遺産分割協議が成立したものと認めるには十分でなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件土地につき控訴人一郎及び被控訴人両名の持分各九分の二(合計三分の二)、本件建物につき同持分各五四分の二(合計九分の一)については、共同相続人間に遺産分割の協議が調わないときにあたり、その分割は家庭裁判所の審判によるべきであるから、被控訴人二郎の本件共有物分割請求の訴えのうち右各持分に関する部分は不適法であり却下を免れないというべきであるが、本件土地につき控訴人一郎及び被控訴人両名の持分各九分の一(合計三分の一)、本件建物につき控訴人一郎の持分五四分の四六、被控訴人両名の持分各五四分の一(合計九分の八)は、本件調停により通常の共有関係になったものであり、かつ、その分割につき右三者間に分割の協議が調わないから、被控訴人二郎の本件訴えのうちこれらの持分につき共有物分割を求める部分は理由がある。

そして、本件土地建物は、一筆の土地(宅地)及び同地上の一棟の建物であって、本件土地建物の地積・構造・床面積、その位置関係、共有者の数及び持分の割合からみて、本件土地建物あるいはその持分を現物で分割することはできないから、競売による代金分割の方法によるほかない。

二以上の次第であり、被控訴人二郎の本件共有物分割請求の訴えのうち前記各持分に関する部分は不適法として却下すべきであり、原判決中これを認容した部分は不当として取消しを免れず、右請求のうちその余の部分は理由があり、原判決中これを認容した部分は相当であるから、その取消しを求めるその余の控訴は理由がない。

よって、右の限度で原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松岡 登 裁判官牧山市治 裁判官小野 剛)

別紙物件目録<省略>

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